有料老人ホーム、「入居一時金」相場と万一の返還金額。
有料老人ホームで取得する居住の権利としては、「入居一時金」と「月額利用料」を支払って居室に住む権利とサービス利用権を得る、いわゆる「利用権方式」が最も一般的です。
ここではこの「入居一時金」について、注意すべき点を数回にわけてチェックしていきます。
最近でこそ、「入居一時金ゼロ円」を売り文句にする有料老人ホームも増えてきているものの、それでも入居一時金の平均費用は、およそ2,000~3,000万円程度といわれています。
入居一時金が数十万・数百万円程度の有料老人ホームがたくさん存在する一方で、高級感を売り物にする有料老人ホームにおいては数億円という事例もあり、施設によってその設定幅は非常に広くなっています。
ちなみに地域別でみると、関東地方の入居一時金の平均は1,200万円強、近畿圏は1,000万円程度、北海道・東北にいたっては600万円弱となっており、地域によってずいぶんと相場に差があることがおわかりいただけると思います。
老人ホーム側が入居一時金を求めること自体は、法律違反でもなく別に問題はありません。
しかし想定される入居期間より前に退所する場合は前払金の未償却分を返還する必要があるため、老人福祉法において「前払金の保全措置」が義務づけられています。
特に入居一時金が高額であればあるほど、「万一の際の返還金額と返還方法(時期)はどうなってくるのか」という点については、契約前に「重要事項説明書」などをよく読み、必ず確認しておく必要があります。
なぜならば、入居のときはこれからどの施設に入居するかという点で頭が一杯になっていることが多く、トラブルや施設の倒産による「中途退去の可能性」については、「想定外の事態」としてまったく気が回らないことが、現実の事例としても非常に多いからです。
万一の中途退去となった場合には、たいていの場合、退去した施設に預けていた入居一時金をすぐ返してもらって、次の施設においてもそのまま使おう…と考える人が多いのですが、「退去にあたって即時に返却する」という規定を置く老人ホームはほとんど無く、大抵の場合、1~3ヶ月後に返金時期を設定しているはずです。
これまではこの返金時期について法的な定めがいっさい無く、「契約からおおむね90日以内の契約解除については、一時金の全額を利用者に返還すること」という指導指針、いわゆる「90日ルール」があるだけでした。
したがって最悪の場合、返金時期が1~2年後に設定されていたとしても、そのことによって業者を罰することはできませんでした。
しかし老人福祉法が改正され、これまでガイドラインにすぎなかった「90日以内の契約解除に伴う一時金の返還(90日ルール)」がついに法制化され、2012年4月1日から施行されました。
(90日ルールの法制化については、 有料老人ホーム、「入居一時金」の保全措置について。をご参照ください。)
さらに2017年(平成29年)5月の改正老人福祉法によって、これまで前払金保全措置の対象外とされていた「2006年3月以前設立の有料老人ホーム」も含め、2018年(平成30年)4月からは前払金保全措置が「すべてのホームに適用」されることになりました(ただし経過措置が置かれており、法律の施行から3年後に完全適用となります)。
法制化によって都道府県が改善命令を出すこともでき、また罰則も整備されることになりますが、現実には前払金をきちんと保全していない業者も相当数いるのが実態です。
厚生労働省の2016年度(平成28年度)調査によると、前払金保全措置があるにも関わらず実際に保全を行っていない義務違反の有料老人ホームは全国で1,311施設中53件、全体の4%あったとのことです。
法律があるからと油断せず、入居する施設からの退去にあたって「入居一時金」の償却後の金額がいくらで、いったいいつ返還されるのか?といった点について、契約前に必ず確認することが必要となります。
有料老人ホーム、「入居一時金の初期償却」には注意。でもご説明のとおり、入居一時金においては、退去時に必ず(初期)償却分が差引かれることになります。
また、退去までどれくらいその施設に住んだか、という居住期間(償却期間)次第で、最終的にいくら戻ってくるかが変わってきます。
退去時にほぼ預けた全額が戻ってくるものと漠然と考えていたところ、実際の返金額の少なさにビックリ!といったトラブルも、現実にはひんぱんに起こっています。
最初に支払う「入居一時金」の金額が大きければ大きいほど、契約前に十分注意してかかる必要があることを、是非おぼえておきましょう。
有料老人ホーム、「入居一時金」の保全措置について。では、入居一時金の「保全措置」と「クーリングオフ」について説明を続けてまいります。
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