無届け有料老人ホームとは何か。その背景と問題点とは。
群馬県の高齢者施設で火災が発生する事件があり、この施設が行政に無届けのまま運営されていた有料老人ホームであったことが、最近話題となりました。
有料老人ホームの定義に該当する施設は、老人福祉法にもとづいて、都道府県への届出が義務づけられています(介護付有料老人ホームとは何か、その基準は?。ご参照)。
以前はこの「有料老人ホームの定義」は、10人以上の入居者数を要求するなど要件がそれなりに厳しかったため、該当しない施設も多かったのですが、2006年の法改正により「老人が一人以上入居していて、入浴・介護・食事・洗濯や掃除などの家事・健康管理のいずれかひとつでも、サービスの提供をする施設」へと、その要件が大きく拡充されました。
もともとは、行政の目が行き届く範囲を広げようとして行った法改正でしたが、その意図とはうらはらに、届出を行わないままに高齢者を入居させるいわゆる「無届け施設」の増加を招く結果となりました。
これらの施設が増加する裏側の背景として、収入水準からみて介護付有料老人ホームや高齢者住宅へ入居することがかなわず、やむなく賃料が比較的安く設定されている無届け施設へと流れる高齢者が少なくないことが指摘されています。
無届け施設の入居者の相当数が生活保護の受給者であり、「需要(入居希望者)があるから供給(無届け施設の増加)がある」側面が否めないことも、また確かです。
厚生労働省の最新の調査によると、これら無届け施設の数は全国で1,650施設(2016年1月末時点)もあるとのことです。
これら無届け有料老人ホームの3割以上となる523ヶ所を、いわゆる「高齢者下宿」が多く存在する北海道が占め、その後に神奈川県・愛知県・大阪府が百件単位で続いています。
ここは都道府県・市区町村にその監視体制を強めてほしいところではありますが、行政からすると、無届け施設側が「有料老人ホームの定義に該当する施設ではない」との主張をした場合、判断が微妙なケースも多くあることから、きちんと反証することがなかなか難しい…といった悩みがあるようです。
これには逆の見方もあり、無届け施設への指導に十分な目を向ける余力のない自治体が、有料老人ホームの定義をあいまいなままにしておくことで、施設への行政的指導を怠っていることの言い訳にしている、との批判も聞かれます。
無届け施設への入居で恐いのは、冒頭の事件のように、本来ならば有料老人ホームとして設置が要求される消防法に定めるスプリンクラーなどの防災設備が不十分であったり、あるいは最低限必要な必要な廊下幅や居室床面積を満たしていないなどの施設設備の不備から、入居者の生命や健康がさまざまなリスクにさらされる可能性が高いことです。
これではとても安心してそこに住み続け、生活の質を保ちながら老後を送ることはできません。
さらに施設の運営側が悪質な意図をもって行った現実の事例として、入居者へ提供する食事内容の質を大きく落として浮いた差額を施設の収益としたり、あるいは実際には入居者に対して提供していない介護サービスを提供したとして、国に不正に介護報酬を請求したケースなどもあります。
部屋の外からカギをかけて入居者を長時間拘束したり、経営的に立ちゆかなくなった老人ホームが入居者をそのままにして、経営者が突然行方をくらましたケースなどもあるようです。
無届け施設においては、このように施設経営者の判断ひとつで、入居者の生活の質が大きく毀損されるリスクが、現実に起こりうることとして存在しているのです。
入居を検討する側としては、事前に都道府県の担当窓口に届出済の施設かどうかを照会し、無届けが判明した段階でこれを避けることが最善手になります。
さまざまな理由から、一時的なつなぎとして無届け施設を利用する人もいるのが現実ですが、たとえ一時のつもりであっても、事情がかわって長期間滞在することになるかもしれませんし、また上に述べたような危険に現実にさらされ続けることに変わりありません。
事業者の説明だけをうのみにせず、事前に自分の目で調査して確認をとるようにしましょう。
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